第1章 娼館【Night raid】
夜の帳が下りる頃、その店は開店する。
レンフィールドのルチアがお仕着せくさい燕尾服を纏い、入り口のドアに紅の灯籠を吊るせば入店可能の合図だ。
中ではまだ従業員達が目まぐるしく準備をしている。
マリアクレア「おい、ユリシス、オレっちの腕の在庫どこさ?」
彼は叫んで隻腕を振り回す。
欠けた方の腕は肘丈のブラウスの袖口から焼かれて赤黒い断面を覗かせている。
ユリシス「倉庫にあるべさ?」
ダンピールのユリシスは常人にはあり得ない自己再生能力を持っている。
故によく肉体を害されるマリアクレアの肉体のスペアを作るのを主な業務としていた。
確か数日前の休みに何本かもいで、貯蔵用の氷室に入れた気がするが。
マリアクレアは唇を噛む。
唇の皮が白い歯に破られるがそこから溢れたのは真っ赤な鮮血ではなく濁った赤茶の腐液だ。
マリアクレア「無いんだよう。在庫!今すぐ作ってくれよ。今夜は九時から常客が来るんさ」
マリアクレアは見た目の若さからまともな娼館でやるような業務を忌避されることが多い。
しかし、彼の失心する主人はきちんと紳士扱いをしてくれると彼は云う。
ユリシスは運んでいたリネンを抱えてため息をつく。
切れた唇をハンケチで拭い頷いた。
ユリシス「時間には間に合わせるから、部屋にいて」
よしよし、と頭を撫で宥められマリアクレアは顰めていた顔を緩める。
マリアクレア「今日の主さんには失礼したくないさ。早くな、早く!」
ユリシスは頷くともう一度彼の頭を撫で歩き出す。