第12章 懐かし語【吸血鬼主従】
「我が君、疲れているならばお部屋へお下がり下さい。運ぶのなんか嫌ですよ」
ルチアがつけていた日誌から顔を上げて云う。
立ち上がりこくりこくりと船を漕いでいる主の頭をついでにと片付けるカップの尻でポカリと殴る。
「痛いではないか。昔はあんなにしおらしかったのにまったく!」
ぷっと頬を膨らませるヴィアトリクスの顔に彼は笑む。
「私だって人間ならば死を考える程の齢になったのです。子供扱いは止してください」
カップを新しい物に変え再び主人の茶を用意するのも手慣れたものだ。
「そうだな……あれからもう十数年か」
街灯も雪に埋もれ始めた窓を振り見て新たな茶を口に運ぶ吸血鬼。