第12章 懐かし語【吸血鬼主従】
「デュラハンがいとまを貰って帰省したと聞くし私も休もうか」
「どちらへ?」
「マダムの顔を見に。新しい彼女の娘の顔も見たい」
手元の端末を指先でたたきながら。
「いけません。冬はかきいれ時なのですよ。我が君を失くしては館は立ち行きませぬ」
ルチアは云う。
彼が愛した後見人通称『マダム』は数年前に逝去した。
彼女の見ていた空の向こうへ。
彼女には直系の血縁が無く最後に赴いた魔界の森深くで出会ったエルブの娘に使命を託した。
吸血鬼達にもそれを伝える便りが来たがまだ彼女に会っていなかったしマダムの葬られた場所にも訪れてはいない。
一一墓など、見たくもない。
いつも冷静なヴィアトリクスは手紙を読み泣いた。
ルチアはそれを知っている。
だから彼をそこへやりたくなかった。
彼はかつて主人と崇め仕えた婦人を深く何にも替え難い程に愛していたし、ルチアだってマダムには大層良くしてもらったのだ。
母には成り切れぬ人だったが、ルチアには母の様な人だった。