第12章 懐かし語【吸血鬼主従】
「あ、あ……お美しい方、尊き方……どうかお怒りならお納め下さいませ、小さき者ですはした者です」
流暢な故郷の言語で話しかけられ彼は火を消す。
物陰から『ソレ』が這い出てくる。
それは人間だった一一。
匂いが街と違う。
自分の半分程しか背がない様な子供だ。
洗えば艷やかであろう髪は乱れ白い肌に乗った顔のパァツは中々に整っている。
一一が。目は死んでいた。
彼は生きている。が、又死んでもいた。
生きる事を諦めた目をしている。
彼は地面に這い蹲った。
「尊き方、わたくしの命が入用ならばどうぞお役立て下さい。小さき者です、抵抗は致しません」
ぶるぶる細い体が震えている。
「どうしてここにいる?」
この街はアチラの生き物の住まう場所だ。
彼にとっては物騒ではないが、人間の、それも子供が一人で踏み入れるには危ない場所である。
「わたくしはわたくしは」
「良い。こちらの言葉なら分かるから話せ」
彼が云うと、子供はまだ震えながら顔を上げた。
「どうした?」
問えば雪の様に透き通った榛色の目からポロポロと涙が溢れる。
「逃げてきたのでございます」