第12章 懐かし語【吸血鬼主従】
一一さぁ、ショォタイムだ。
彼は内心でほくそ笑み店内に足を踏み入れた一一。
それから数時間一一。
きっちり十枚の金貨を懐にしまい、彼は店を後にした。
ヴィアトリクスにとって賭け事は遊戯(ゲェム)だし、愉しい遊びだ。
負ける事は無いし事実彼はカモになった事は無い。
すっかり藍色に染まった空の下、バァルを目指して歩く。
この金貨が又一枚になる頃には婦人が馬車に乗ってやって来るだろう。
外套が濡れない程の小雨は段々と冷えすぐに雪になった。
歩くのが苦な程ではない。
冷たい肌に当たる冷たい雪はむしろ心地良かった。
街灯の下に立ち止まり簡素な葉巻を取り出し火をつける。
ライタァのオイルの焼ける匂いと葉巻の草の燃える香りが合わさった呑いたての薫りが鼻をくすぐった。
ふと、何となしに見た土壁の建物と建物の合間で何かが動く一一。
見間違いかと目を凝らすとやはり何かが居る。
煙草を咥えたまま彼はそこへと近づく。
ライタァを灯し奥を照らす。
立ち上がる火柱に何かが顔を手で覆う。
魔界製のそれは建物を焼き払う程の火を出す事すら容易い。