第12章 懐かし語【吸血鬼主従】
仕事は彼の客へのメッセージを手紙や電子端末でしたためたり、店でやるキャンペーンのチラシのデザイン、店の紹介のチラシ作り、経理書類の作成一一。
ヴィアトリクスは何気に多才だった。
年齢で云えば人間ならば二回は死んでいるであろう高齢だが常に歴史の最前線に立っていた所為か頭は最新である。
電子機器もお手の物だ。
ただ一一、
「夜闇は頭が洗われる様で好いが目には良くない」
眉間を揉み液晶用の眼鏡をかけ直して彼は云う。
「一段落したら休みましょう……今日は忙しくて疲れました」
今日は予約も駆け込みの客も山程来て、彼も主人も他の主集も上に下への大忙しだったのだ。
働き者のルチアさえ音を上げたのだ。
主人も疲れている筈である。
「そうだな。今日の会計の締めだけして引き上げよう」
再び眉間を揉むヴィアトリクス。
酒のカップを押しやり広げた電子端末で会計書類を作る。
「寒いな……あゝ、雪だ」
窓の外を見て彼が呟く。
夜闇を滲ませるぼんやりとした街灯に白い雪玉が輝く。
「茶を淹れましょう」
ルチアが立ち上がり云う。
カウンターに入るついでにすっかり冷えた酒を下げる。
「お前を拾ったのもこんな雪の日だったな」
肩から掛けたマントを掻き寄せながらヴィアトリクスは云う一一。