第12章 懐かし語【吸血鬼主従】
椅子に深く腰掛けていた彼は体を起こし砂糖をたぷんたぷんと落とし軽くカップをステアする。
角砂糖が形を無くした辺りで徐にそれを口に運ぶ。
一口飲み、深くそれを味わいふぅと息を付く。
それをルチアは調理器具を洗いながら見る。
「お疲れ様でした。我が君」
従業員が急いで済ましたらしい夕食の皿を洗い布巾で拭きながら彼。
「あゝ」
砂糖をスプーンで掬い舐めながらヴィアトリクス。
「もう休みますか?」
「いや、幾つかやっつけておかねばならない雑事がある」
熱酒を呷り椅子に深く腰掛け直しながら主人は眉根を寄せた。
この時間になると仕事を終えた娼夫達は寝室へ引き上げている。
夜更けは彼等一一吸血鬼の時間だ。
仕事柄昼前には目を覚ますとはいえ吸血鬼にとっては闇夜が活動時間の本番。
その為夜の戸締まりは彼等の役割と決まっていた。
大体仕事が終わるとヴィアトリクスはこのロビーの特等席でルチアを待ち、彼に仕事明けの一杯を淹れてもらい飲んだら又ひと仕事一一というのがお決まりになっている。