第11章 竜王の部屋
「……」
仕方なく口を手で押さえ上がりそうになった声を止める。
一体何が起きているのだろう。
一一いつも当館を贔屓にして下さるファレン様へ。
そんな招待状を受取った彼女は娼館に予約を入れやって来た。
だがいつもの様に愛しい館の住人の名は告げられず従者に取り囲まれ一一今に至る。
「うむ。やっと自分の立場を弁えた様だな」
白い指が顎を掴み猫にする様に撫でた。
それはとても優し気で先程の暴行等忘れそうになる。
「我が名はデュランダル。退役はしたが一時は此岸を統べる王一一所謂魔王に名を連ねる者。まあ、今は仕方なぁくここで館の王をしている」
手を離しけん、と爪先で床に倒れ伏した彼女の顎を持ち上げ、『王』。
逆光で見るとまるで観仏の様に後光が差して見える貌は確かに美しかった。
子細が整い絶妙なバランスで配置されている。
瞳は優しげな翠ながら細く吊り上がり威圧的だ。
眉は細く絶妙に目を縁取り鼻筋は高く通っている。
唇は紅過ぎずだが口付けたくなる瑞々しい色をしていた。
肌は云うまでもなく白く透き通り一一魔王というより天使、と云いたくなる。
「武君の王、金の鬣を持つ『獅子王』とは我の事である」
云い、王は足を退けた。一一のでファレンは再び顎を強かに床に打ち付ける。