第10章 【VIP】屍鬼の部屋
昨今、人間による魔物への逆搾取が問題となりその一つに魔物の肉を食らう異食が挙げられる。
それを合法的に口にできるのがこの部屋だ。
基本的には異食症として傷病化すら認められた魔物の肉を食らう嗜好が法の許可の下、赦される部屋。
一部の愛好家には神とすら讃えられる少年。
「さ、主さん食ってくれ」
キン、とナイフとフォークを鳴らしてマリアクレアはポットローストを切り分ける。
どちらもよく煮込まれた肉。
見分けはつかない。
「付け合せの人参グラッセも芋も美味いぜ?」
肉を切り分けミュラーは空の皿に乗せ付け合せの野菜もよそる。
「じゃあ、いただきます……」
銀を嫌う二人の為に態々金塗りになっているフォークとナイフを取り彼女は肉を取る。
右の欠片を一口。
「良かったら口をすっきりさせるのにどうぞ」
シュワシュワと泡を吹く紅薔薇色の液体がシャンペングラスに注がれた。
「果実酒?」
グラスの足を持ち匂いを嗅いでミュラー。
ふつふつと弾ける泡の中からは淡い柑橘類の様な薫りがする。
「まあ、その様な物で……」
具体的にナンなのかを曖昧に濁すユリシス。
「甘くて美味しい……」
グラスを回して立ち上る泡を眺め、彼女。
「ささっ、もう一献」
ユリシスが飲み干されたグラスに再び酒を注ぐ。
グラスの中でシュンワリと螺旋を描いて泡が舞う。
「で、分かったかい?」
いつも通り、食べ終わった食器は片付け二人を侍らしミュラーは寝台に寝転んだ。
「うーん……」
笑む彼等に言葉を淀ませる彼女。
一一正直判らなかった。
のだ。
どちらも美味でいつもの舌から神経の隅々まで掴まれる様な頭の痺れる様な多幸感を覚えた。