第10章 【VIP】屍鬼の部屋
「これは?」
バトラァの様な白のシャツに漆黒のカマーベストを着たマリアクレアに椅子を引いてもらい腰掛けながらミュラー。
「利き屍肉でございます」
恭しく礼をしながらユリシスが云う。
その言葉にミュラーは目の前の皿を見た。
同じ様にローストされた肉の乗った湯気の立つ皿。
「一つはおれっちが自力で生やした正真正銘おれっちの腕」
マリアクレアが云う。
「もう一つはもいで接いでいないわたくしの腕」
ユリシスが頭を上げ笑んで云う。
「何しろ私達は感覚全てが鈍い故、はたして味に違いはあるのかと思いまして」
この館に住まう他の住人達を思い浮かべミュラーは苦笑う。
『私にそんな物を口にしろと云うのか?』
一一十三始祖のプティスゥルにして貴族(ロード)のこの私に?
口の肥えた吸血鬼はそう拒否しそうだ。
『ぇー、ボク、甘い物しか食べたくない』
吸精鬼はひどい偏食家だ。
好きな物以外は一切口にしないし、美意識の高い彼が脂分など摂りそうもない。
『まぁ、戦場で食べる豚の餌の様な飯よりはましでしょうな』
ハハハ、と爽やかに笑う首無魔騎士の顔がありありと想像できた。
従者もストイックに頷きそうだ。
この館の頂点に立つ獅子王等鼻息一つ、
手で下げろと示して終わりであろう。
一一この肉を美味いと感じるのはこの部屋を気に入る感性を持つ人間だけなのだ。