第10章 【VIP】屍鬼の部屋
「だからそんな綺麗な顔なのね」
吸血鬼と云えばアルピノ色一一異常な程の白い肌に紅の眼が特徴であるが、ユリシスは褐色の肌にオイルグリーンの目をしている。
頭髪は銀糸の様な薄いプラチナブロンドだ。
「ええ、父は祖母に似通った顔をしていましたが、私は母に似た様で、日光にも負けぬデイウォーカー持ちです」
吸血鬼のクォーターがダンピールだが、彼は日光の下も出歩けるという。
今だ南の実り豊かな大地の森深くに住み、他種族と関わらず生きる傾向にあるエルブの地上への信仰心を受け継いでいるのだ。
一一血統として。
「故に吸血鬼にはエルブの子とそしられ、エルブには『汚らわしいあいのこ』と呼ばれ長く裏社会にいましたから、今は幾分か楽な生活ですね」
やわらかくまるで熟れた果実を洗うような優しい手つきはすっかり慣れきっている。
一一彼は他人の体を傷付けずに洗う術を熟知するような環境にいたのだ。
「辛かった?」
今度は濡らした髪を洗ってもらいながら女主人は問う。
「いいえ、母に存分に働き身を立てよと云い付けられましたから」
エルブの一族は滅多に住処から出ず容姿が麗しい為人魚の様にステイタスの一環としてそれを連れ歩く富裕層がいる。