第2章 何はなくともつかめなくとも
前はクラスに居ても、存在すら認識されてるのかわからないほどだったのだ。
それが今はなぜか毎日主将がにやりとした顔つきで私をクラスまで迎えに来るし、あまり興味がなさそうだった弧爪君も時々一緒に来てくれている。多分、主将に彼も連れてこられているんだと思う。
主将にそんなことをしなくても私はちゃんと行きますよと言ったことがある。
すると主将は彼特有のニヒルな笑顔で私の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。そして、こう言った。
「お前らなんか似てっからついな」
弧爪君はその言葉に不快感を表すこともなく、違うよとゲームをしながら言っていた。
「咲とは理由が違う」
その言葉が印象的だった。彼と目が合うと全て見透かされてるような気がしたが、それでも不快感は感じなかった。彼は人と距離感をつかむのが上手いようで、目立たなくとも周りとうまくやれている。
私の場合といったら、適当な人物と会話して愛想笑いして、携帯が震えるたびに恐怖して、ラインが来たらすぐに返して、興味を持たれなくなることが怖くて心とは違う言葉を打ち続けた。
それでも、みんな私の心に気が付くのか人は離れていく。会話をしたくないわけじゃないのに、相手から返信は徐々に遅れて興味を失われるのだ。そして誰も残らない。
だから、私はとても他人にとって意味のない人間に思えた。面白味のない、旨みのない人間のように思えた。
上手に人と関わるのが苦手なのに私はそれを求め続けていた。
そういう点で彼は私と真逆だと言ったのだ。ものすごく的を得ている。素晴らしい観察眼だ。
今、研磨君はみんなにトスを上げている。それも人によって高さや場所が違うことが最近分かってきた。とても器用なことをしているなと感心する。バレーはボールに長く触れてはいけない競技だから、余計にだろう。
私が見ていることが分かったのか研磨くんはちらりとこちらを向いたが、興味がなさそうにまた元の場所に視線を戻す。そして彼が最後にトスを上げたのが主将の黒尾くんだった。
彼はどちらかと言えば防御専門のように見える。ブロックやレシーブが得意で、キルブロックで相手コートに落としたりワンタッチでボールの威力を軽くしている印象がある。
だが、彼のスパイクも私にとっては脅威だ。