第2章 何はなくともつかめなくとも
軽やかなトスから上がるボールに大きな手が振り下ろされる。
ボールはコート上に叩きつけられ、リベロである夜久くんが悔しそうな、でもにやりとした表情が印象的だ。
スパイクを打ったのはリエーフというクオーターの大きな一年生だ。彼もスパイクを打っているときはすごく楽しそうな顔をする。レシーブ練習とは正反対だ。
そしてその横で強打をするのがうちのエースと言い切っている猛虎君だ。
彼もスパイク練習は爽快らしい。晴れやかで決まったときは少し騒がしい。
今はスパイクの練習とレシーブの練習時間なので各々ボールで遊んでいる印象がある。
私の高校は守りが強いチームなようなので、スパイクはほぼいなされてしまうことが多いが。でも私の印象からして攻めが弱いなんてことは感じない。
またボールが軽快な音を出して地面をたたく。コートに放られるそれは私から見ると弾丸のようで、見ていると少し怖い。
しかも、気を抜いていると自分の方に向かってくる恐れがあるので注意してみないといけない。まだ、当たったことはないがすごく痛いことが容易に想像できる。
手に持ったみんなの分のユニフォームを持って駆けていく。夏場であることもそうだが、みんな汗をかく。何かしらみんな対策を持っているにしても毎日自宅で洗うことが難しいこともある。今日は土曜日なので朝からユニフォームを干し終って畳んでいるところだ。全てを畳み終わってひと段落すると私は自然に息を吐いていた。
マネージャーになってから一か月が経っていた。
始めはどんなことをやればいいのかわからなかったが、わからないことは基本的に誰かに尋ねれば丁寧に教えてくれた。監督には本当にお世話になったし、みんなも友好的でひどく安心している。虎なんかは泣きながらありがとうと伝えてきたのでよほど人手が足らなかったのだろう。号泣されたのはびっくりしたが悪い気分じゃなかった。
役割があることは今の私にとってすごくいいことだった。
地に足がついていないのか、そうじゃないのかわからなかった私は浮遊するように今まで生きてきた。
どの部活にも入らず、誰とも深く関わらなかった私にはすごく天変地異が起きたみたいに世界が変わって見える。