第1章 見ず知らずのひかり
「じゃあ、オレはお前が死ぬところを止められなかったことを一生苦しまねばならんということか、はぁ、嫌な役回りだぜ」
私の顔がどんどん固くなるのがわかったのか、彼は面白そうに続ける。
「その子はオレの手を振り払い、逝ってしまう。手放す感触とかずっと覚えんだぞ。わかってっか」
沈黙するしかできない私に、彼はため息をつく。
「取りあえず、オレはそんな気分を味わいたくねぇから、こっち来てくんねぇかな」
目の前の人に迷惑がかかる。そんな言葉で私は死ぬことをためらってしまう。私は高いフェンスをよじ登り乗り越えて、彼のもとに戻ってきた。
すると彼は容赦なく私の頭をはたいた。
「アホたれ、いつか死ぬんだから今死ぬ必要なんかねぇだろ」
無言の私に彼は容赦なくまた頭を叩いた。
痛いとも、やめてとも言えなかった。彼の言葉は正論過ぎて何も言えなかった。
そして、私の手首をつかんで屋上のドアをくぐり階段に差し掛かる。
「――馬鹿なことしてんじゃねぇよ」
そういってなかば引きずられるように階段を降りていく。
彼の手は力強く、そして温かかった。
だた、それだけのことなのに、視界がにじんでくる。
わかっている。自分はわかっていたのだ。死にたいわけじゃないと。
心の中で懺悔する。
ごめんなさい。ごめんなさい。本当は誰かに見つけてほしかっただけなの。
苦しくてどうしようもない私を見つけてほしかっただけなの。
惨めな私に誰か手を差し伸べてくれるんじゃないかって、勝手に想像して願って切望していたの。
だから、あなたの手が温かいことに泣いているのは私の勝手なワガママなのだ。
嬉しくて、嬉しくて、馬鹿な私のために怒ってくれる人がいてくれるのがいてくれるのが。
涙が零れて、しゃっくりあげるようにうに泣き出す私に彼は何も言わなかった。