第1章 見ず知らずのひかり
しばらく歩いて校舎を抜けた後、部室がいっぱいある場所に連れていかれた。
そこは部室から淡い蛍光灯の光が漏れている。そばにいるのは線の細い頭の上あたりが黒くて染め直していない金髪の男の子が壁に寄り掛かってゲームをしていた。こちらも知らない子だった。
彼はこちらを向かずにぼそぼそとつぶやく。
「……よかった、助けられたんだね」
「おう」
そして背の高い男子はまた私は頭をはたく。
「研磨に感謝しろよ、お前見つけたのコイツだから」
「あ、ありがとう」
「……別に、よかったね生きてて」
お世辞にも温かみのある言葉ではなかったのに、また私はポロポロと涙を零れてきた。涙腺はもう決壊してしまっていて、修復するには時間がかかりそうだ。
それにぎょっとしたのか彼はようやくこちらを向いた。だが、すぐに顔を背ける。
「……なんで泣くの?」
「嬉しかったから」
少し考えるように彼は視線を上に向けたけど、すぐに興味をなくしたようにゲームに視線を戻した。
「そう」
背の高いほうの彼がまた私の頭をポンポンとたたく。
「ねーねー、オレと研磨はお前を助けた恩人ってことだよな?」
私の前にまわりこんで顔を近づける。ニヤニヤとしてくる彼に私は体をそらせながらもうなづく。
すると彼の顔はものすごくあくどい顔をした。
「じゃあー俺たちにお礼してくんねー?」
「えっ!」
びっくりして声を上げる私にさらに笑みを深くした彼は告げる。
「俺たちンとこマネージャーいないんだよね、県内じゃ結構有名な成績出してるのに」
有名という言葉でピンときた彼らはバレー部なのだ。県大会でいつも上位にいる。
察しがついたのがわかったのか彼は人のいい笑顔で私の手を握る。
「いやーありがとう。人で少なくて困ってたんだ! 助かるよー」
無理ですと言えない状況になってしまった。元より嫌だと言えるほどの要素がないうえ、断りにくい。ちらっとゲームをしている彼に助けを求めるが無反応にゲームをしている。どうやら逃れられないらしい。
諦めたようにうなずくと手をぶんぶんと振り回してよろしくと言ってくる。
「ちなみに俺主将の黒尾鉄郎、あっちのは弧爪研磨」
「……よろしく」
「……よろしくお願いします」
急な展開でびっくりしてはいるけれど、私のマネージャー生活は始まることになる。
生きる希望などなかった私にほのかに明るい日が差した気がした。