第1章 見ず知らずのひかり
真っ暗な学校の屋上で私はぼうっと立っていた。
上を見ると今日は満月でとても明るい。雲もない月がとてもきれいに見える。
だが、そんな日に私はこの世から去ろうとしていた。
にげたいと思っていた。すべてから。日々から、日常から。
携帯に縛られる毎日から。
でも、それを実行することはためらわれた。
真下から風がびゅうびゅうと吹いてスカートが巻き上げられる。
落ちたらどれくらいで死ねるんだろう。確か首を切られても10秒間は意識があるらしいから、苦しく死んでいくのは確かだろう。即死って言葉は曖昧だ。一瞬で死んだのか、少し苦しんでから死んだのか、わからない。
下を見てみる。眼下は薄暗いグラウンドが見えるだけだ。
そして頭の中では痛いだろうなとか、私が死んだら誰か悲しんでくれるのかななんて夢想しながら立っていた。
でも、私がいなくなることで悲しくなることは恐らくだけどない。
親は泣いてくれるだろう。でも、その周りは? 友達は? 学校の人たちは? クラスメイト達は?
きっと一時的な悲しみや苦しみにはなるだろう。けれど、それだけだ。みんな私のことなど忘れていく。
思い出したとしても、あぁ、そんな奴いたなぐらいだろう。
もともと人付き合いがうまいほうではないし、私自身が馴染んだ気がしていない者たちがどうして涙を流してくれるんだろうと思う。ひどく滑稽な話だ。期待なんてホントはむなしいことだってわかっているのに。
すでに高いフェンスを乗り越えて、一歩踏み出せば私という存在は世界から抹消される。
だが、その一歩がなかなか踏み出せずにいた、未練などないのに。一歩が遠い。
「おい」
びっくりして私は飛び上がる。相手も驚いたのかフェンス越しに私の制服をつかんだ。
「あせられんなよったく」
首を回して後ろを見るとものすごく背の高い人だと気が付いた。ユニフォームを着ているからどこか体育会系の部活に所属しているんだろう。その人の顔を見ようと見上げる。
すると髪の毛が逆立っていてやや釣り目の男子だった。知り合いではない。
私は突然のことに声が出なかった。彼は目を細くして私を見る。すごい迫力だった。
「おい」
「……ひゃい!」
「しってっかー? こういうところで死ぬとすげー周りが迷惑するって」
その言葉に私はゆっくりととうなづいた。
「へぇ」
口の端を吊り上げて彼はにやりと笑う。