第4章 こんな暗闇でもたまには優しい
彼もあの日を思い出したのだろうか。私も感慨深く空を見上げる。本当によく似た満月と暗闇だ。
「おかげで楽しく生きてます。嫌味な主将をいなせるぐらいには」
「言うようになったじゃねぇか」
拭きだすように彼は笑って、いつの間にか持っていたペットボトルの口をねじる。どうやら炭酸のようで開けた瞬間に空気が抜けた。そのペットボトルを見て私は目を丸くする。
「あ! 私の秘蔵のジュース!!」
「マネージャーは尽くすもんだぜ? 一人でお楽しみとってんじゃねーよ」
「違うもん、みんなの分もちゃんと持ってますぅ……缶ジュースで」
「愛が足らんな、愛が」
そう言って私の分も取られてしまう。口をつけてあるのにお構いなく一気に飲み干されてしまう。しかめた私にまたにやりとされる。からかう気満々なのがはっきりとわかった。
「おやおや、女子らしく関節キッスだとか騒がないの?」
「もう、慣れました」
彼はよく私のジュースを取ってしまう。最初は顔を真っ赤にしてたり怒ったりしていたが、それが彼の目的だとわかってからは何の反応もしないように努めている。すると彼はつまらなそうに口の端をとがらせた。
「反応しろよー」
「嫌です。無駄です。受け付けません」
すると頬を指で何度もつつかれる。それすら無視していたら、今度はまた顔をつかまれて無理やり彼の顔を見るように仕向けられる。
さすがに抗議しようと眉をつり上げて口を開けた。けれど、それで止まってしまった。彼が思いのほか真剣な表情をしていたから。思わず息を止める。
こんなに間近で主将を見たことがないし、距離感に妙にドギマギしてしまう。
「……何してんの?」
背後から不審そうな声がかかる。私は声の方向へ力いっぱい顔を向けた。手はすぐに離れた。そこにいたのは研磨くんだった。しかもほんの少し機嫌が悪そうに見える。
「――研磨、お前タイミング悪いな」
心なしかガッカリしているような主将の声に、研磨くんの乏しい表情が険悪なものになる。
「……タイミングがいいの間違いでしょ」
言って私の隣に座り込む。そして手にはペットボトルを持って先をひねる。明らかに私の持ってきたものだった。