第4章 こんな暗闇でもたまには優しい
音駒の三年生は全員春高まで部活をすることを決めた。
みんなやりたいのだ。烏野との試合を。ゴミ捨て場の決戦を。叶わなかった戦いを監督に見せたいのだ。
その為には今できることを必死にやらなければいけない。明日の作業工程を頭に思い浮かべて、一瞬気分が下がるがそれもすぐに浮上した。私も楽しみなのだ。みんなと一緒に居れるこの時間が、嬉しくてたまらない。
――アホたれ、いつか死ぬんだから今死ぬ必要なんかねぇだろ。
主将の言ったとおりだ。死ぬのなんかいつでもできる。だったら今やりたいと思えることを必死にやるべきだ。
以前の自分とはまったく違う思考だ。180度変わったと言ってもいい。そこまで変えてくれたのはきっとみんなのおかげで、特にあの二人のおかげだ。
クラスで私は相変わらずうまく立ち回っているとは言えない。けれど、私は愛想笑いを止めた。
好かれようとすることを止めた。
すると不思議なことにちらほらと話せる人が出てきて、今では孤独を感じることはない。驚きの変化だ。
たった数か月で人はこんなにも変われるものなのだ。だとしたら、人間には無限の可能性がある。なんて壮大なことを考えている自分にクスリと笑った。
飛び降りようとしていた自分に言ってやりたい。未来はわからない。たった一つの出会いが自分の世界を変えることがある。そんなことを考えていたらいつの間にか横に大きな足が見えた。首が痛いぐらい見上げるとにやりとしたいつもの彼の表情。何も言えず、見ていると彼はかがんで視線を合わせる。
「お隣いいですかー?」
と言いつつもう座っている。私は何とも言えない表情で彼を見ていた。
「……いつから、見てた?」
すると彼は軽く笑った。
「すわって―、縁側の爺さんみたいにボケっとどっかながめててー、一人で百面相してる時から」
「……ほとんど全部じゃん」
さらに彼が笑顔になる。嫌味ったらしいその笑顔に私はふくれっ面になる。すると頭を手のひらでぐしゃぐやに撫でられる。怒るなよなんて言われながら私は撫でられるままそっぽを向いた。
その様子がおかしいのかまた笑われてしまう。顔をつかまれて無理やり主将のの方へ向けられる。しげしげと私を見て口の端をあげた。
「――ずいぶんとまぁ元気になったもんだ」