第4章 こんな暗闇でもたまには優しい
蝉も泣き止んだ満月の夜。大きく息を吸い込むと日本特有の湿気と土の匂いが鼻をくすぐる。
あの日もこんな夜だった。
私は地面に吸い込まれそうなほど見つめていた。びゅうびゅうと吹く風を一身に受けながら私はまばたきもせずににらみつけていた。落ちる為に。自分を抹消するために。あの時の私はあがきたくても、あがき方がわからなくてどうしようもない状態だった。
誰かに必要とされたい。でも、傷つくのは怖い。そんなことばかり考えていた。
でも、今はその気持ちが遠くに感じる。彼らのおかげだ。
あの日私の制服をつかんだ主将。私を見つけてくれた研磨くん。
彼らがいなければ私は今の自分はいない。私を救い上げてくれた彼らに感謝している。
――そんな日に今日の月は似ている。
今は他校との合同合宿で森然高校に来ていた。春高の予選を勝ち進むために、監督がセッディングしてくれたのだ。強豪と戦えるのもひとえに監督の交友関係の広さのおかげだ。監督には頭が下がる。
みんなこの合宿を楽しみにしていた。強豪と戦えること、成長し続ける烏野と再戦することを熱望していた。だが、合宿は苛烈を極めた。クーラーが利かない体育館。意図せず落ちる汗。連続の試合に負けるとペナルティもある。
それに連日の猛暑でみんな体力が奪われ、へばってきている。そのせいか真夜中の宿舎は寝静まっていた。
お供に連れてきたペットボトルを手でつかむ。飲むとじんわりと体に染みて心地いい。
冷蔵庫に冷やしておいたのにペットボトルから水がしたたっていた。もうずいぶんここに居座っているらしい。
体は朝からの作業でくたくたなのに、眠れない。いや、眠りたくなかった。
だって、わくわくするのだ。みんながどんどん目に見えるほど成長しているのが間近で見れて、嬉しくてたまらない。