第3章 染まりやすいものに憧れて
「春高!!」
突然、叫んだ私にみんながぎょっとする。主将もそうだ。
私は主将をにらみつけながら、涙をボロボロと落としながら私は続ける。
「一緒に行きますよね!?」
声も震えて、汚い顔をしているだろう。私はそれでも彼に伝えたかった。
――馬鹿か、かっこつけて、たまには周りに気を使わないで本音を言え!
私の言葉に主将は目を見開きうつむいた。苦悶するようにまぶたを振るわせ、顔をあげた。笑顔だったけれど、それは少し崩れて見えた。
「行くに決まってんだろーが」
そう言って彼は近づいてきた。私の手にボトルを渡し、横を通り過ぎていく。そして、通り過ぎるその瞬間に私にしか聞こえない声でつぶやいた。
「――サンキュな」
声が、震えていた。驚いて振り返ると彼はゆったりと通路を歩いていった。私はぐちゃぐちゃな顔で彼に向かって叫ぶ。
「約束だよ!!」
彼は片手をあげてひらひらと手を振った。そして彼は見えなくなった。追えばきっと彼はいつもと違う表情をしているだろう。それを見られることを嫌うことを私は知っている。だから、追わない。
いつもの彼になるまで私は待つのだ。
するとふいに後ろから肩を叩かれる。研磨くんだ。
「……ありがとう」
その言葉は淡々としていて、彼らしい口調だった。私は首を振る。
「私は見てるしか出来なかった! なんにも、なんにも!」
頭を軽くはたかれた。彼らしからぬ行動に私は驚いたが、叩いた本人はいつもより少し眉根をつりあげていた。
「みんな咲に感謝してるよ。……否定しちゃ、ダメ」