第3章 染まりやすいものに憧れて
またさらに視界がにじんでいく。今はもう一人じゃない。教室では一人のことが多いけど寂しいことは無くなった。放課後すぐに主将と研磨くんがやってきて私を迎えに来る。
体育館に着くと夜久君が笑顔で迎えてくれて、リエーフや猛虎が騒ぎ出す。
いつもの風景だ。前はとても緊張して扉を開いていたけれど、今は胸の内が騒ぎ出すような高揚感で中へ入っていけるようになった。
嗤われてうつむいていた私に、笑顔をくれたみんなに何かしたいと思うようになった。
前を向けるようになった。部活のためにみんなのために必死になった。バレーの本を見まくった。一つ一つのボールを朝、一番に来て磨くようになった。そしたらいつの間にかみんなもボールを一緒に拭きだした。
馬鹿みたいな応酬をして、笑うようになった。笑顔が増えた。
――だから、今、終れない。
みんなが笑顔で最後を迎えられるように。
もう視界なんて歪みまくって何も見えない。けれど、目の前の研磨くんに向けて私は言った。
「わたじ、もっど頑張る! もっと、もっとみんなが勝てるように!」
その言葉を聞いて彼は穏やかにほほ笑んだ。
「――ありがとう」
研磨くんの手のひらが優しく頭をなでる。
私は涙を地面に落とすことしか出来なかったけれど、彼は優しかった。
この優しい時間をくれた彼らに私は感謝をすることしか出来ないけれど、これから何かできるように、誰かに居てくれてよかったと思われるように私は頑張ろうと思う。
そして、桜が咲くころには笑顔で彼らと笑いあうのだ。