第3章 染まりやすいものに憧れて
終わりの音が鳴る。
私は歯を食いしばり、ボールが落ちる音を聞いた。
湧き上がっている観客の中で私は苦い想いで点数表を見る。
結果はフルセットの一点差。私達の負けだった。
みんな頑張っていた。いつも以上の動きが出来ていたし、誰かが大きなミスをしたわけではない。
完全に力量が相手の方が勝っていた。それだけだった。
私は見ているだけだ。やったことと言えば、タオルを渡しボトルを渡し力になるかわからない声援を送っただけった。それなのに。
――それなのになんでこんなにも悔しいの
口に力を込めてないといろんなものがあふれ出しそうだった。
そんな中、選手たちが戻ってくる。みんな元気がない。覇気がない。いつも元気な猛虎もうつむいて眉根を寄せていた。拳が震えていた。
あまり表情が変わっていないのは研磨くんくらいだ。主将でさえ言葉が出ない。
私に向かってきて、主将はなにも言わず手を差し出した。私はその手のひらにボトルを渡した。
彼はそれを飲み干すように傾けて潰していく。握る手がいつもより強く見えるように見える。
私は主将がボトルを飲み終わった瞬間、表情が変わるのが見えた。いつものニヒルな人を小馬鹿にしたような笑みだ。そこに監督が声をかける。数度言葉を交わして、彼は手をあげた。
「集合!」
そして選手を集めて彼はいつものように周りに声をかけていく。まるで、これで最後みたいに。
にやにやして笑っていた。おかしいぐらいにいつもの彼だ。そしてみんなに向けて言う。
「今までありがとうな!」
その言葉がみんなの堰を切ったようだった。夜久くんは涙を流し始め、孟虎も同様に目には悔しさがあふれてきていた。研磨くんもうつむいた。
みんな涙を流し始めているのに、主将だけが涙を流さない。
私も我慢していたけど、逆に怒りがわいてきた。なにへらへらして自分は辛くないみたいに言っているのか。私なんてそんなに関わってないのにこんなにも悲しくて、悔しくて、苦しいのに。
唇をかんで、私は我慢していたけれどもうそれは出来なくなった。