第22章 赤い船
別に油断していた訳ではない
グレイスからも言われていたし
常に周囲を警戒していた
それなのに、ちょっと意識をそらしたわずかな隙をつかれてイリスは、薄暗い路地裏に引き込まれてしまった
(えっ?何?)
明るい通りから一転、急に視界が薄暗くなる
腰に回された太い腕が相手を男だと理解させる
危険を感じ身をよじり抵抗するが相手の歩みを止めるまでにはいたらず、路地の奥へと連れ込まれる
(ちょ、ヤバイ!逃げなきゃ……でも…………)
逃げることは簡単だ、助けを呼ぶことも……
だがここで騒ぎを起こしたら確実に人が集まり、自分の正体はバレる
グレイスとの約束も破ってしまう
(いま抵抗して人目を集めるより、誰も見ていない所でそっと…………)
目立たない事を最優先に、イリスは不審者が立ち止まり腕の力が緩まる瞬間を待つことにした
路地を何度か曲がり、塀を飛び越え屋根を渡る
仲間が集まってくる様子も無いが、音も無く歩を進める不審者に思った以上に出来る相手かもしれない、と警戒する
イリスは油断を誘うため、か弱さを強調してみる
ふるふると小刻みに身体を震わせ、か弱い少女の様に振る舞い、自分の実力を隠す
しかし、イリスの思惑とは裏腹に相手は油断するどころか、更に腕に力を込めてガッチリとイリスを押さえつけてきた
(えっ?なんで?)
聞いてた話と違う
父、ドラゴンの元で鍛えていた頃
女性幹部達からは………………