第20章 無理難題からの絶対絶命
対峙する二人には互いの後方の様子など知るよしもない
「お世話になりました。ご恩は一生忘れません。」
ローにも後ろのペンギン達にも感謝してもしつくせない
その思いをありきたりな言葉だが、満面の笑顔と共に彼らに伝える
その笑顔には感謝とエースを捜しに行ける嬉しさが、8:2ぐらいの比率で含まれていた
「…………気をつけろよ」
ローは素っ気ない対応だが、その目はイリスを見つめていた
そして早くも後悔している
視界に映る、物凄い形相の男をもう一度切り伏せようかと悩んでいると
「船長さん、本当にありがとうございました。………………あの、それから“あの事”は内緒にしといてもらえませんか?」
“あの事”
ローが気づいたイリスの秘密
本人は誰にも隠してはいないつもりだった、ただ聞かれないから話さないだけで………
まさか身体を見ただけで気づく人がいるとは思っていなかった
これを知らせるのはエースが一番最初だと決めていた、だから内緒にして欲しかった
自分に近づき、顔を寄せ、囁きかけられる
ほんのり染まった頬にローの悪戯心が沸き上がる
「いいとも、ただし条件がある」
ニヤリと笑うローを見て、昨夜の交渉で墓穴を掘ったイリスはビクッと身構えた
「俺の事は名前で呼べ」
以前から気になっていた、船員には(特にベポ)名前で呼びかけるくらい親しくなっているのに自分だけいまだに呼ばれていない事に
それに、全裸の彼女と一晩過ごした仲なのだから今更“船長さん”と呼ばれるほど距離が離れている訳でもない
何より、今を逃せば次がいつになるかも分からない
「えっ………えっとぉ…………ろ、ロー?」
イリスは無茶苦茶な条件では無かった事に安堵するも、あらたまって名前で呼ぶのは気恥ずかしく、更に頬を赤く染めた