第20章 無理難題からの絶対絶命
「わっ…わた……わた…し………」
震える唇
思うように喋れない
頭の中ではいろんな事を考えてしまう
エースを裏切ってしまったのではないか?
嫌われるのでは?
いや、
それ以前に会う資格が…………
「~~ゥっ!」
そう思っただけで目頭に熱いものが込み上げてくる
幼い頃から好きだった相手
お互いに好きあっていたのが分かった時
自分はなんて幸せ者なんだろうと感謝した
エースの事は誰よりも分かっているし
自分の事を誰よりも分かっているのもエース
17歳の時に置いていかれたのはショックだったが、そうしたエースの気持ちも解らなくはなかった(勿論、怒っていない訳ではないが……)
離れていてもエースが自分を好きだという思いに疑いはない
そんなことは、考えるまでもない事
絶対の信頼と愛情
だからこそ、エースを直ぐには追いかけず、彼の好きにさせていた(自分の修行もあったし……)
だからこそ、今まで一人でも堪えられた
なのに
「うぇっ………ス…………エ、エースぅ~」
眠るイリスを見つめながら時間を潰す
薄い布団にくるまれ、規則正しい寝息を立てるたびに上下する豊かな胸元を見ても今は何も感じない
ローは、先ほどまであった彼女に対する肉欲はすっかり無くなり、ただイリスが目覚めるのを待っていた
しばらくするとイリスは目を覚まし、何やら百面相をしながら青くなり、そして泣き出した
恋人だと言う男の名を呼びながら
そりゃあ、自分の意識の無いうちに素っ裸にされてりゃどんな女でもそれなりの事を疑う
ましてや俺は、確かにこいつを抱く為にこの部屋に連れて来たんだからな……
だが、
「何を泣く?お前が失ったものなど無い……何も……」
そう、何もなかった
昨晩は何も無く
ただひとつの部屋で共に過ごしただけだった