第20章 無理難題からの絶対絶命
先程までの楽観的な考えも一瞬で吹き飛ぶ冷たい声音
ビクリッと肩が揺れ、姿の見えないその男が本気である事がわかる
一歩づつ近づいている足音
動く度に聞こえる衣擦れの音
微細な息遣いまでもが耳に届く
じわじわと高まる緊張
さっきからまだ一言も話さない二人
沈黙が続く室内
すぐ後ろに船長さんの気配を感じる
しかし確かめようにも体は動かない
どうする事も出来ないイリスは、ただじっと息を殺して背中にローの存在を感じていた
イリスの横たわるベット脇に立ち、自分に顔を背け肩を震わす少女を見下ろす
このまま襲いかかってもいいが、自身も能力者なので“海楼石”の手錠をつけたままのイリスに触れるとその影響をいくらか受けてしまう
動けない訳では無いがこれでは自分も存分には楽しめない
(さて、どうしたものか)
考えながらもローは、ベットに手を伸ばしイリスを仰向けにひっくり返した
恐怖に見開かれた蒼い瞳と視線が合わさり
イリスの震える唇からか細い声が聞こえた
「………グレイスは?」
「バラして魚の餌」
「…………ッ!」
「…………嘘だ、バラして縛って倉庫にぶち込んできた」
クックッとイリスの反応を楽しむ様に笑う
食堂でグレイスをバラし仲間に縛っとけ、と、指示をだした時の事を思い出す
グレイスはローが思った以上に手強かった
しかし、狭い室内でローの能力から逃げ出すのは至難の技で、奮闘虚しくサークルに捕らえられ、小間切れにされてしまったのだった
「安心しろ、明日には二人仲良く出発させてやる」
「ぺ………ペンギンさんは出ていって欲しく無いから船長さんに抱かれろって言ってたわ?」
対峙するローに恐怖しながらもキッと鋭く睨みつける
「どういう事?言ってる事が全然違うわ!」
「………………」
「ほんとに船から出られるの?」
(ペンギンめ、余計な事を…………)