第19章 ハートの海賊団にて・その2
勢いのまま部屋を飛び出し、着いた先は食堂
そこには夕飯の支度をする者や、談笑する者、そしてペンギンらと航路を話し合うローの姿があった
「あのっ………船長さん!!」
突然の大声に全員の視線がイリスに集まる
息を切らし緊張の面持ちで駆け込んできたイリスが何を言い出すのかと皆、注目している
しかし、呼ばれた本人は眉間のシワを深くしながら全く違うことを考えていた………
(こいつ、いつまで俺を“船長さん”呼ばわりするんだ?)
イリス達がこの船に乗って随分たつ
ベポはもちろん、その他の仲間とも名前で呼びあう程に打ち解けているのだが、どういう訳かローだけ役職名のままだった
イリスの中でローは尊敬するべき医者であり、命の恩人である
そんな彼を馴れ馴れしく名前で呼ぶなど、イリスにとってはあり得ない事だったのだ
彼女は誠意と敬いをもってローを“船長さん”と呼んでいる
しかし、彼女の気づかいは彼の中に、静かにそして着実に不満とイラ立ちをつのらせていた
不機嫌な思考から我に返ると仲間達が自分に注目していた
「……………?」
何やら心配そうにする者や、悲しげな視線の者
ベポなどは既に泣いている
(……?何があった?)
ローの目線の先にはイリス
彼女に関連した事なのは確実だろう
食堂に来て“船長さん”と呼ばれた所までは覚えているが、そこから先は全く聞いていなかった
いつまでも黙っているローにペンギンが近づき、耳打ちした
「船長、どうするんスか?いいんスか?」
小声で話しかけてきたペンギン
珍しく焦りがみえる
(どうもこうも、話が見えないな………)
聞いていなかったとも言えないローは、不用意な発言を避けて黙りを決め込む
すると泣いていたベポがイリスに抱きつきこう言った
「うわぁ~ん、イリス~行かないで~!」
ずっと一緒にいようよ!寂しいよ~!と、続いた言葉にローは彼女が別れを告げに来たのだと知る
「ゴメンね、ベポくん……」
イリスがベポを慰めている間に、ローはペンギンから事情を詳しく話を聞き出した