第19章 ハートの海賊団にて・その2
彼女曰く、早く恋人の“エース”を捜しに行きたいから少しの金銭と労働力を対価にこの船から出ていくと言うのだ
別に金を貰うつもりなど元から無かった
“医学への知的好奇心とイリス本人への純粋な興味”
それさえ満たされていればローはどんな報酬も必要なかった
しかし、イリスは出ていくと言う
恋人を求めてこの船から去って行く
「………………チッ」
目の前で白クマを優しく撫でる女に無性に腹が立つ
「今までありがとう」
「皆、元気でね」
周りの奴等にも既に別れの挨拶をしだした
(俺の了承も得ずに出ていく気か?それとも俺が反対するはずが無いとでも?)
今まで時間がたっぷりあると思い、イリスに強引な態度は控えて来たが見誤ったようだ
(ミスったな………)
恩を着せる訳ではないが、折角なので彼女が自ら言い出した提案に乗ってみるか………
「出ていくのか…………」
ポツリと呟いたその声は、何やら意味ありげにその場に響き、全員の視線を集める
「はい………大変お世話になりました」
「何か手伝ってくれるんだって?」
「はい、家事でも、船の修理でも!何でも………………あっ!海賊との戦闘だってできますよ!」
にこやかな笑みと共にローと向かい合うイリス
エース捜しの再開と新たな旅路に心踊らせている彼女は、ローの声にかすかな嫉妬が籠められていることに気づかない