第19章 ハートの海賊団にて・その2
青空、白い雲、風は冷たいが太陽が輝いている
気持ちのよい気候とは裏腹に、船首に座り込み背を向け肩を落とすベポ
そこに、猫なで声で近づく人影があった
「ベポく~ん、ゴメンね?もう許して?」
イリスである
あれから全てのいきさつをローから聞いて、誤解の解けた二人
ローも、途中から話の食い違いに気づいてはいたが、彼女の勘違いが面白くて黙って聞いていたそうだ
悪い男である
イリスは、ベポに謝った
イリスとグレイス、二人の命の恩人であるベポに攻撃を仕掛けたことを心から反省している
彼が見つけて、そして助けようと言ってくれなければ二人は死んでいたのだから
「ゴメンなさい、まさか白熊さんが恩人だとは夢にも思わなくて………」
「熊でスミマセン……」
「あっ、違うのよ?そう言う意味じゃなくて、ただ知らなかったってだけなの」
「存在感が無くてスミマセン……」
「も~う、風呂場から出て来れなかったんだから仕方ないわよ?あの病気って動物にかかりやすいらしいじゃない?」
「ケモノでスミマセン……」
こんな調子で噛み合わない会話が続く
端から見たら、ベポは相当怒っているように見えるが、実はもう、ほとんど怒っていなかった
自分を食べようとしていたイリスに恐怖し、初めは警戒していたベポだが、誠意を込めて謝られ、優しく微笑まれれば怒りも長くは続かないもの
今ベポは、許すタイミングを逃してしまい、どうしていいか分からないでいるのだ
美人に低姿勢で謝られ続けると、自分が悪者になったように居心地が悪い
早く“許す”と、ひとこと言えば解決するのだが、切っ掛けを掴めず、ダラダラと不毛な会話が続いていた
「……………」
「……………」
ついに二人とも、話す事も無くなり黙りこむ
気まずい空気に耐えられず、イリスはベポの前から立ち去った
(オレのバカ~!イリスさん、怒ってどっか行っちゃったよ~)