第16章 空の上 海の中
イリスの左手に、ふわふわの帽子が落ちた
彼女の右手は今、ローの手の上にある
「えっ?手が……………」
一瞬のうちに、二つの位置が入れ変わった
これも船長さんの能力のひとつだと言う
瞬間移動に感心して、両方を交互に見た
自分の右手に視線を移すと、自然に船長さんに目がいく
帽子を取ったその顔は、エースと同じ黒髪と、隈が濃い不健康そうな目元が印象的で、思ったより若い船長さんだった
若いと言っても多分、自分よりは歳上だろうなぁ~なんて思っていると
「たしか…………この手に、思いっきり殴られたよな………」
ローは、自分の手の中にあるイリスの右手を撫でる
小さな右手は、ローの頬をひっぱたいた為か、手のひらがほんのり赤みを帯びていた
撫でられた右手がくすぐったくて、僅かに身をよじる
彼の能力についてだいたい分かった
そして、自分が勝手に勘違いして騒いでいたことも分かった…………
船長さんに、手をあげてしまったことを謝らなくては………と、近づいて行くと
ローは、イリスの目の前で、彼女の手のひらにキスをした
「ッ…………!!」
自分の右手に口づけが落とされ、それを間近で見せつけられる
切り離されてはいるが、唇の感触、かかる吐息も、ハッキリと伝わった
ニヤリと、こちらを見るその目に、イリスは、自分の顔が次第に紅く染まっていくのを感じた
「なっ、何を……なんて………ナニをして……?」
鋭い視線を向けて抗議するも、赤い顔をして、今にも泣きそうな声では全く迫力が無い
「フッ………これで殴ってきた事はチャラにしてやる………ん~⁉顔が赤いなぁ?ルーフス病が再発したか?」
ローは、目の前のイリスから自分の帽子を受け取り、その顔を覗きこんだ