第16章 空の上 海の中
「また診察してやろうか?」
そう言って近づくローを振り払い、必死に距離をとり、逃げるイリスの顔はほんのり赤いが、若干恐怖に引きつっていた
「ちっ違うからっ………近づかないで!」
「ふ~ん?…………チュッ………」
離れて行くイリスに見せつける様、また手のひらにキスをするロー
吸われた箇所に紅い模様が浮き上がる
「ちょっ………もう止めて下さい!私の右手返して!」
右手を人質の様に扱われ、わたわたとローにまとわりつき、それを取り返そうと奮闘するイリス
無表情だが、どこか楽しそうにイリスをあしらうロー
そんな二人のやり取りを、ペンギンと、首だけのシャチがじ~っと見ていた
ペンギン達は、船長がイリスの手にキスしだした辺りから、二人に聞こえないよう、コッソリと話していた
「なあ………、俺あんな船長、初めて見たぜ?」
ペンギンは、下から聞こえた声に頷き、同意しながら答える
「あぁ……珍しいな……」
(コレは、もしかすると………)
薄々感じていた船長の気持ちに、確信めいたものをもつペンギン
ハートの海賊団は、船長に対する恐怖で纏まっているわけではないが、あまり感情を表に出さないトラファルガー・ローは、船員達から尊敬と、畏敬の念を持って接されていた
右腕であるペンギン、野性的なベポ等は、ローのわずかな感情の変化にも気づく事が出来るのだが、他の船員には、やはり難しいらしい
ペンギンは、何度か「船長を怒らせた………」と、泣きついてきた彼らの誤解を解いてやったものだ
目の前の光景を、良い傾向だと思った
完璧な船長よりも、人間味があって接しやすい
彼女はこのまま、この艦に居てくれないものだろうか?
「イリスちゃん、俺らの仲間になればいいのにな~」
「ッ…………!!」
ペンギンは、自分の考えがシャチから聞こえて来たことに驚き、そして嬉しく思う
二人の視線の先には、右手首をエサに、イリスの気を引いている、我らの船長がいた