第16章 空の上 海の中
「フギャッ……………った……イヒァい!」
顔の中心に走った痛み
予期せぬ衝撃に目を開けると、そこには不敵な笑みでイリスの鼻を摘まむローの姿があった
ギュッと指の力が強まっていく
あまりに痛くて、今まで流していたのとは違った涙が流れ出る
「ッ…イヒァい、ハニャが取れちゃう!」
ジタバタともがくイリスをローは、面白そうに眺めていた
イリスが目を閉じ死の瞬間を待つその姿は、無防備そのもので、まさに据え膳状態
ローは、このまま喰ってやろうかと思ったが、何かが心に引っかかる………
目の前の少女は一見普通の女の子だが、悪魔の実を食べた鳥人間、そして六式、覇気をも操ることができる、グランドライン前半の海でも有数の強者である
しかし、彼女のやさしい性格や、実戦経験の少なさ、今現在の状況に軽くパニックを起こしている状態から、戦えば勝てるのに戦おうとせず、なぜか死を覚悟してしまっているのだった
彼女の中に何かを感じ、無理やりことにおよべば、大きなしっぺ返しを喰うだろうと思ったローは、冷静に頭を働かした
こいつには、かなりの力が秘められている
本気で抵抗されれば船体の損傷は免れない
そしてそれは、現在深海にあるこの船と仲間達にとって、死につながる重大時
せっかくイリスから得た医者としての信用と、尊敬を手放すのも惜しい………もっと利用してからだ……
それに、もうすぐペンギンが、シャチを連れて戻ってくるはずだ
結果、ローは目の前の少女の鼻を、ギュッと摘まんで、わたわたと慌てふためくイリスを観察するに留まったのだった