第16章 空の上 海の中
ハラハラと涙が頬をつたうイリス
今まで激昂していたとは思えないほど弱々しい姿は、儚げで、男の保護欲をそそる
その姿に冷静さを取り戻したローは、話の食い違いに気づく
(こいつ、オレがシャチを斬り殺したと思ってんのか?)
確かにローの能力を知らない人が見れば、今のローは、仲間を斬り殺した極悪船長だろう
「おい、シャチは死んで」
なんかいない………そう続けるはずがイリスには届かなかったようで
「彼……シャチさんと言うの?可哀想に、さぞや無念のうちに亡くなられたことでしょうね」
「まだ若いのに…………」
死んだと勘違いしているシャチのことばかり話すイリス
目の前にいるローのことなど、もはや眼中に無い
次第にイライラしだすロー
イリスの頭の中がシャチで埋め尽くされていることに嫉妬を覚え、涙を流すその顔に手をかけ、自分を映す
潤んだ瞳はサファイアよりも美しく、涙は泉の様に止めどなく溢れ出てローの手を濡らす
「おい、何勘違いしてやがる!あいつは死んでねぇ、生きてる」
「何言ってるの、私はバラバラに斬り刻まれたのを見てたのよ?」
濡れた瞳でキッと睨みつけられるが、ローはイリスの勘違いが面白く、口元がゆるむ
「離してよっ!仲間を殺したっていうのに、そうやって笑っていられる人を信じられないわ」
なんとかしてローの手から逃れようと身をよじる、しかしそれを許さないように、掴む手に力がこもる
「クックックッ、オレの言う事が信じられねぇようだな………なら、死んだシャチに会わせてやるよ」
ローは視線をイリスから反らし、ペンギンを見る、すると彼は何も言わずに、この場から立ち去ってしまった
廊下に二人だけが取り残される、鋭い視線を向けられたイリスは、ローの言った言葉の意味を理解した
自分も殺されるんだ…………そして死んだシャチさんに会いに行け、と言う事ね………