第16章 空の上 海の中
至福を感じた時間は短く、シャチは今、心臓を握られているかのような心地だった
自分の体の上で縮こまるその女の子は、頭上で起きていることなど露知らず、ギュッとしがみつき、顔を伏せて可愛く震えている
泳ぐ視線
流れる冷や汗
船長に覗きこまれているだけなのに、何故こんなにも心が落ち着かないのか……
(怒ってる?オレ何かやらかした?心当たりがない~!!)
たった数秒なのに1時間にも、2時間にも感じる沈黙
「……………」
「ッ………!」
おもむろに、ローはイリスに手をかけ、シャチからベリッと引き剥がすと窓の近くに移動した
そして外を指差しながらこの船の説明と、さっきしたのと同じ、魚か海王類だろうと説明をしている
イリスは、やっとこの船が潜水艦であると理解し、初めて乗った興奮と、海の中の景色に目を奪われて窓にへばりついて離れない
そんなイリスの後ろに立ち、肩に手を掛け一緒に窓の外を見ているロー
なんだか機嫌が良さそうに見える
「………?」
怒っている様に見えたのは、自分の思い過ごしだったのかと、ホッと胸を撫で下ろすシャチ
しかし、立ち上がろうとした所に船長からの提案(命令)が伝えられた
「おい、ベポを風呂場に入れて何日だ?そろそろ仲間が欲しい頃だろ………一緒に入ってろよ」
「……………ハイッ……」
いつもの無表情に、穏やかな口調、だがそこには有無を言わさぬ迫力がこめられていた
もちろん船長命令に逆らう事など出来ない
遠巻きに見ていた仲間に連れられ、シャチはベポの待つ風呂場へと歩きだした
(やっぱり怒ってた………)
自分の何が悪かったのかは分からないが、船長からのお仕置きが《バラされる》ではなかった事に安堵する
数日前に医務室でやらかした仲間達を思い出すシャチ
普段のお仕置きよりも細切れで、3人分ミックス状態だったので、戻すのがかなり大変だったのだ