第16章 空の上 海の中
ベポの必死の頼みだが、聞いてやるのは難しい
ローはこの症状に覚えがあった……(正確には見覚えだが)確か昔に読んだ医学書に載っていた
《ルーフス病》
鳥を媒介にして広範囲に広がる感染症で、病原菌を含んだ羽や糞が空気中に拡散し、それを吸い込むことによって感染すると言う
目の異常から始まり、徐々に内臓疾患を誘発
一昔前は治療法も無く不治の病だったが今は抗生物質と適切な治療で治る
しかし動物に感染すると症状がより重くなり、体内で新たな病気を併発する、と……
ローがいち早くベポを隔離したのはそう言う理由からだった
きっとこの鳥が感染源だろうと倒れている男と反対側にいる白鳥に近づき目を診る
赤い目、白い羽だがその下の皮膚も赤い
「やはりこの鳥か………チッ………」
ローは忌々しげに鳥を放り出す
男と白鳥を小舟に残しペンギンに船に戻るぞ、と伝え振り向いたその背後から微かな声が聞こえた
「いっ……たぃ………」
投げ出された身体の痛みに声が出てしまう
イリスは朦朧とした意識の中で近づいてくる船を観察していたのだ
見たことのない形の船、海賊なのか海軍なのかも判断出来なかったので迂闊に助けを求めれなかった
時おり意識は途切れるが、何とか目を開いていた
こっそり見ていると、船から出てきた男はグレイスを診ている、そして何か叫んだかと思ったら次は自分に向かって近づいてきた
イリスは男の服装から海軍ではなく海賊だと判断し、このまま意識不明を装いやりすごす事にした……が、いきなり放り出されるとは思っていなかったので、つい声が出てしまったのだ
「キャプテン……今………?」
ベポと入れ替わったペンギンも白鳥の方から声がしたのに気づいた