第5章 Episodes櫻井:優しさの裏と表
「とりあえず保健室やな、行こ」
ヤスくんは私を抱き上げると、
そのまま扉を蹴破って
歩き出した
「…なんでヤスくん来たの?
いま、ここじゃないでしょ」
「あーうん。
でも明後日から寮に住むねん
やから視察的なね
したら、あいつら慌てとってな
話聞いたらねーさん居らんもん
ぼく、怒鳴っちゃった」
えへへ、
と笑うヤスくん
「でもそれだけ許せへんかった
何かあるって分かってるくせに
ねーさん守れてへんやん、ってな」
「相変わらずのジェントルマン」
でもちょっとだけ聞こえた。
焦ったような声が聞こえて、
ヤスくんが私を呼ぶ声とか。
夢かなって思った。
だって私なんて、
誰も気にしてないって
本当にそう思ってたんだから
ギュ…
「…っ居なくならないで
もうっ…どこにも行かないで…」
泣いた顔を隠すように、
私はヤスくんの胸の方に顔を向けた
「居なくならん。」
「本当に?」
「当たり前やろ
僕にはねーさんしか居らんねんから」