第4章 Episodes.錦戸:女好きにも理由がある
「ねえ、私と付き合おうよ
私なら亮くんの事分かってあげられるよ」
不気味なその笑みは、
俺にとって今じゃ恐怖でしかない
怖くて力が入らない
だれか、なんて叫んだところで
誰もいやしないのに
がちゃ、
扉が開いた。
「疲れた〜、亮、飯ある?」
兄ちゃんが疲れ切った様子で
リビングへ入ってきた。
状況よりも、
マヤを見るなり険しくなった。
カバンを投げ捨て、
マヤの腕を強く引き俺から引き離した。
そしてそのまんまの勢いで
マヤを突き飛ばした。
「なにしてんねんお前!!!
俺の弟引っ捕まえて何すんねん!!」
どうやらマヤを知っているらしく、
1度も見ない怒鳴り声
怒った顔で彼女を睨んでいた。
「なに、って…、愚問ね
私のものにしようとしていたのに
先輩、なんで邪魔するんですか」
「亮だけはお前の餌食にさせへん!!
はよ出て行け!!二度と来んな!!!」
マヤを追い出した後、
兄ちゃんは俺に言った。
「あいつ、学校でも割と有名やねん
容姿とかで惚れて自分のものにするため
手段なんか関係なく相手に近づくねん
中にはトラウマで女性恐怖症どころか
人間不信になって引きこもりになる奴もおる」
「…そんな、」
「最近変やと思ってん。
女あんま好いてへんお前が
仲良くしとる女が居るって聞いて」
ごめんな、危なかったな、
笑った兄ちゃんは
優しく抱きしめた
「俺、卒業したらちゃんと働く
父さんのため、お前のために」
「…なあ、兄ちゃん」
兄ちゃんの決意なんて、
耳に入らずに
切り出したこの言葉を
「おれ、誰も愛しちゃあかんのかなぁ、」
母さんからは道具扱いされた
金儲けのために、
家族のふりされて
兄ちゃんまでたぶらかした
マヤからはモノ扱いされた
自己満足のためだけに、
優しくされ偽善を見せた
父さんまで、騙した
誰も愛すなって、ことやろ??