第4章 Episodes.錦戸:女好きにも理由がある
「お母さんはな、
ユウマのことが欲しいだけや」
そう言った父さんは
手に持っていたスプーンを置いた。
掬った炒飯がボロボロ皿にこぼれ、
俺はカチャン、と
スプーンを落とした。
その言葉はただ俺に対して、
小さな傷をつけるのに
何ら力のいらない言葉だった。
「自分を無償で愛してくれる、
ユウマだけがあいつにとって都合がええ」
「意味、わからへん」
「お前は母さんをあんまり好きやないやろ
悪いところばっか見てきたからな
でもユウマはちゃう。良いとこも知っとる
やからこそ、拒めへんねん
母さんに必要とされればユウマは
素直に喜んで言う事を聞いてしまう」
じゃあ、最初から兄ちゃん目当て
俺なんかに興味はなかったんや
そう気づいた時、
必然的に涙が流れ落ちた。
どこかで求めていた気持ちが、
知らないところで拒まれ傷がついて
「俺、母さんにとって
どうでもええ存在やったんやな」
辛くて苦しくて、
だから涙も止まらんくて。
そのまま、家を飛び出してしまった。