第8章 Episodes.泉森:愛と温もりと憎悪
あの男は消えた。
兄さんが何か言ったのかもしれん。
僕には分からへん。
だけどあの男は僕に言うたんや
『またイズミを迎えに来るから』
ゾッとした。
寒気がして、震えた。
なぜねーさんに執着するのか
理由を問いただしたかった
でも出来なかった。
僕が不安になったらアカンって。
今は、今はねーさんのことを
心配してやらなあかんねん
ねーさんが一人ぼっちだったことも。
男の人や人間不信なのも。
突き放されたことも。
僕は見てきた。知ってる。
だから守ろうって、絶対に、命懸け。
心で誓ってきたんや。
せやのに、せやのに僕は…。
君を守るどころか連れてかれしまった。
あんな最低な男に、ねーさんは…。
「まあ、事情は理解した。
その結弦って男がやばいことも」
「でも手が出せないって…なんで?」
「ねーさんがおるってのも理由やけど
そいつの家もなかなかおっきくてやな
簡単に"はい返して"なんて言えへんねん…」
「そうなんや、厳しいんやな」
うんうん、と頷く大倉の横で
気難しそうな顔をする二宮
「二宮」
「…なに?」
「1つ、言っとくけど。
ねーさんはお前の為やからな」
そう言うと、少し驚いた顔をした。