第8章 Episodes.泉森:愛と温もりと憎悪
母は夜にまた仕事があるからと
夕方にはねーさんの家に着いた。
『ねーさん帰ったでぇ』
静かな家に僕の声だけが響いた。
ねーさんの声が返ってこない。
嫌な予感がした。
『ねーさん?寝とるん〜?』
部屋を覗いても、
リビングを見ても、
ねーさんの姿はなかった。
じわじわと焦りだけがこみ上げる。
まさか結弦が…?
いやでも鍵は持ってないはずや。
出禁を告げられとるんやから、
敷地内にも入れんはず…
『章大。早い帰りだったな。
おばさんと会ったんだろう?
ゆっくり夕ご飯食べてくれば良かったのに』
『兄さん、おかえり。』
『は?
今日はソワソワしてたし…
早く帰れと言われてたのにな。』
『ど、いうこと?』
『なんか結弦が来るかもしれないからと
怖がってたんだ。だからなるべく早く
帰れるように切り上げてきたんだ。』
結弦…!?
やっと僕は理解した。
ねーさんは連れ去られてしもうたんやって