第8章 Episodes.泉森:愛と温もりと憎悪
寮母さんの実家は俺の家よりお金持ち。
金持ちの世界では名が知れてるぐらい
彼女は社交界にも顔を出してた。
まあ俺は強制で連れてかれてたけどな。
今思えば彼女の表情はおかしかった。
貼り付けられたような笑顔、
具合が悪そうな顔色に、
怯えたような言葉。
傍にいたあの男は自分を
彼女の特別な人なんだと言っていた。
寮母さんの兄は海外にいるから、
その代わりに自分が付き添ってるのだと。
「規模がデカすぎるって…
ちゃんのお家はそんな凄いの?」
「凄いも何も。権力もあるし、
余るほどの財力もあるし。
適わないよ俺なんかの家じゃあ。
下手に手出ししたら潰されるのがオチ」
どうして助けて欲しいと、
なんで言わないのかずっと不思議だった。
優しい人が周りにいて。
愛されていて恵まれてるって、
勝手に思っていたから。
だから寮母さんが
男性を拒絶しているのを見た時、
やっぱりあの傍にいた男のせいなんだと
なぜだか俺は確信していた。
「ちゃんと知らなきゃ、彼女のこと
俺らは何も知らない。知らなすぎると思わない?
俺は彼女のことを助けたいと思ってる」
翔さんが言った。
その言葉に雅紀も亮も大倉も。
しっかりと頷いた。