第5章 Episodes櫻井:優しさの裏と表
その日は課題がたくさんあり、
資料とか調べながらしないと
終わらないような課題だった。
歴史ものって調べると、
昔の面白い出来事とか
こんな事件があるんだって
学べるから割と好きなんだよね。
ザァー…
微かに聞こえた雨音
どうやら外は土砂降りの雨らしい
傘ないしなぁ、
貸傘でも借りようかな
手に取った数冊の分厚い資料本を
カウンターに持っていこうと
抱えた時だった。
コツ、コツ、
と聞こえたヒールの音。
顔を上げると、
雰囲気が変わったその容姿に
俺は唖然とした。
ストレートの長い髪、
茶色がかった髪の色
今思えば、亮のストーカーだったのだ。
「傘、ないんでしょう?
私の傘大きいから入れてあげる」
「い、らない!貸傘あるし」
どうしてか普通に話せなくて
心の中には恐怖がいっぱいだった。
優しく笑うあの笑顔は、
いつも不安で孤独な俺を
安心させていたのに
今は不安を煽るのに充分なものだった。
バクバク、ドクドク、
激しく鼓動を打つ心臓。苦しい。
「もうすぐ閉館ね
勉強熱心なのね、翔さん
でもこんな学力の低い高校なんて、
私、知ったときびっくりしちゃったのよ」
「ち、近づくなよ。
俺はもうセリナとは関わりたくない」
「あら、聞き捨てならないわ
独りぼっちだった翔さんを助けたの、
どこの誰だと思ってるのよ。
いつも寂しがって泣いてた翔さんを
傍で慰めてあげたのどこの誰だと思ってるのよ」
近づくセリナの顔には、
もうあの優しい笑顔なんてなかった。