第5章 Episodes櫻井:優しさの裏と表
「どうして怯えるの?
私、貴方に会うために頑張ったのに
おかしいわ、なんで泣くの?」
黒みを帯びたその笑顔は
ゆっくり頬をなでた
「好きなの」
声にもならない恐怖、
ボロボロと涙が溢れた
逃げなきゃ。
そうじゃなきゃ、
セリナに何かされる…!
「…離れろっ!!!」
セリナを突き飛ばして走り出した
降りかかる雨粒が痛い。
土砂降りだから体全体に突き刺さる。
それから必死に走った。
そのたび雨で滑って転んで
痛くて、立ち上がれなくて
このまま意識がなくなればいいのに
そんなことを思っていた。
俺には居場所なんてない
心の拠り所なんてない
一人ぼっちだ。
もう誰も味方なんていない
「翔さん」
「せ、りな」
傘をさしたセリナが
俺の近くまで歩み寄る。
「忘れないで。私ね、
貴方のことだけは絶対に忘れないから」
そう言ってセリナは傘を地面に置いた
見たことも無い怖い顔で、
セリナは俺を殴った