第81章 そして誰もいなくなった
「上司を真っ先に疑うなんて信じられないよ」
「疑われても仕方ない生活態度取ってるからでしょうが、あんたが!」
「だからって出会い頭に縛り付けようとするなんて酷くない!?見損なったよリーバーくん!」
「どの口が言ってんですか本気でブチ切れますよ…!」
プンプンと頬を膨らませ不満を露わにするコムイに、ピキピキとリーバーの額に幾つもの青筋が浮かぶ。
ぷっつんと切れるのも時間の問題な程、震える大きな青筋。
堪忍袋も限界とは、正にこのこと。
「ニャー!ニャニャニャー!」
その空気を止めるかのように、コムイの肉親であるリナリーが口を挟んでくる。
がしかし、今のリナリーでは逆効果でしかなかった。
「にゃ…ニャア…?……君達、僕のリナリーで一体なんのプレイをしてるんだい…?」
「ひぃっ!」
「ふ、不可抗力です!」
「これには面倒臭い訳が…!」
猫声しか出なくなっているリナリーを見た瞬間、ギラリとコムイの目に殺気が生まれる。
じゃこん、とリーバー達の目の前に突き付けられる、コムリンEXの腕の大砲。
真っ暗な銃口を目の前にしつつ、条件反射でリーバー達は一斉に両手を挙げた。
「そんなことより!感染ってどういうことですか室長!」
「そ、そうですよっ」
確かにリナリーの猫声も問題だが、それ以上の問題は別にある。
必死に軌道修正を図るリーバーに、続けてジョニーも声を張り上げる。
「それはこっちが聞きたいよ。アレを僕から取り上げて隠したのは、リーバーくん達じゃないか」
「え?」
「えーっと…?」
「アレ?」
「…すみません室長から取り上げた物が多過ぎて、なんのことだか…」
しかしむすりとしたコムイの表情は変わらぬまま。
アレだよアレ、と言うコムイに、リーバー達科学班は一斉に首を捻った。
心当たりが多過ぎて、どれがどれだかわからない。
「ほら昔、仕事が徹夜続きだった時にさー。残業用にって僕が作った薬だよ」
「───あ!」
「南?」
「それってもしかして…"コムビタンD"じゃないですかっ?」
はっと一番に気付いたのは南だった。
忘れもしない。
それは徹夜が一週間をも過ぎ去った、地獄の仕事の日々にコムイが作り上げた薬。
〝コムビタンD〟