第81章 そして誰もいなくなった
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「ぜぇ…っぜ…ッ」
「は…っ逃げ切れ、た…っ?」
「も、走れな…っ」
「はぁああ~…!」
ドサリと勢いよく床に座り込む、科学班一同。
婦長の謎の奇行がまるで移りゆくかのように、謎の荒ぶる集団と化してしまった団員達。
科学班で無事なのは、班長であるリーバーの他に、ロブと南とジョニーの三人となってしまっていた。
『ガァアアア!』
『グルルゥウ…!』
「うへあ…すげぇ人数…あいつらどうしちゃったんさ…?」
「僕が知る訳ないでしょう…にしても足早っ」
「チッ、うじゃうじゃいやがる。俺ら以外に無事な奴は見当たらねぇぞ。くそっ」
研究室から命からがら逃げ出し、大急ぎで転がり込んだとある倉庫の一室。
こっそりと窓から外を伺うラビとアレンと神田の目に映るのは、まるで亡者のように唸り声を上げながら走り回っている団員達。
そこには先程まで一緒に引越し作業をしていた科学班の面子も見える。
どうやら逃げ遂せた此処にいる人物以外は、謎の奇行が感染してしまったらしい。
「まさかまた敵襲か…!?」
「…いや、」
「…なんていうか…」
「…敵襲っていうより…」
「これはうちの巻き毛が関わってる気が…」
まさかまたノアかAKUMAか、敵の手に掛かり団員達は操られているのか。
鋭い目で辺りを伺うリンクに対し、青い顔で首を捻ったのは科学班一同だった。
科学班の直感と言うべきか。
原因を探れば、どうしても巻き毛の長身眼鏡中国人男性が浮かんでしまう。
どうにもこうにも嫌な予感。
「でもなんだって、急にあんな暴れ出したんだろう…僕達は何も変わってないのに」
「そういやそーさな。手足掴まれたりしたけど、なんも異変はないみたいだし」
「噛まれると傷口から感染しちゃうんだよ。すぐにああなっちゃうから気を付けて」
「はぁ?感染だぁ?なんでそんなことわかんだよ…」
重々しい溜息を付きながら、科学班の横に同じくドサリと座り込むエクソシスト組。
最後に脱力気味に座り込んだ神田が、淡々と告げてくる声に突っ込んだ。
「だって、僕が作ったウイルスだから」
人の気配などしなかったのに。
倉庫の隅で小さく体操座りをしていた、コムイ・リーという男に。