第81章 そして誰もいなくなった
「ぎゃあ!?なっ…なんでお前まで噛んで…!?」
「いった…!」
「ガルルァアア…!」
「は、班長…これって…」
「あ、ああ…」
突然の奇行は婦長やミランダ、そしてマリだけではなかった。
あちこちで婦長に噛まれた者が更にまた別の者を噛み、まるで連鎖するかのように拡散していく不可解な行為。
辺りの不穏な空気を感じ取ったロブが、恐る恐るリーバーへと問い掛ける。
「なんか変じゃないですか…っ?」
「変どころじゃないな…」
「どうしたんだよ皆ッ!?」
「何が起こってるの…大丈夫っ?」
噛まれた者から、次々と涎を零し焦点の合わない目を彷徨わせ、低い唸り声を上げる。
必死にジョニーや南が声を掛けても反応しない姿は、正に"異常"だった。
「こいつら正気じゃねぇぞ!」
瞬時に危険だと判断した神田が、容赦なくマリの顎に強烈な蹴りを入れ脱しながら叫んだ。
「扉の方を見て下さい!」
「え?」
「うわ…!」
続いて響くリンクの声に、追い詰められるように研究所の隅へと固まっていたアレンやリーバー達の目が扉へと向く。
見えたのは、ぞろぞろと雪崩のように研究室内へと入ってくる団員達。
「ハァアァアア…」
「ガルルル…」
「ウグァアア…」
その誰もが涎を垂らし、覚束無い足取りで進みながら、奇妙な唸り声を上げている。
どう見ても異常な姿だ。
「ガァアアア!」
「グルルァアア!」
「わ、こっちに来る…!」
「く…!」
とても正気には見えないが、異常な者とそうでない者の区別はつくらしい。
一斉に固まっていたリーバー達へと襲い掛かる団員達に、アレンは咄嗟に一歩前へと踏み出した。
「ニャー」
「ニャアウ!?(アレン君達は!?)」
「チッ…やられたか…!」
リナリーは咄嗟にイノセンス"黒い靴"を発動させると、近くにいた神田とブックマンを担いで宙へと避難するように跳び上がった。
高い天井から見えたのは、一斉にアレン達へと襲い掛かる団員達。
群を成した彼らに覆われ、アレン達の姿は忽ち見えなくなってしまった。