第81章 そして誰もいなくなった
何処かで聞いたことがあるような、音。
しかし何処でだったのか。
(なんだったっけ?)
思い出せない。
「何急に黙り込んでんさ、南」
「いや…うん。なんでもな───」
「きゃぁあああ!!!」
音は一瞬だった。
此処は人気の多い科学班研究室。
音の出所を突き止めるなど無理だろうと、早々諦めた時。
ラビと南の会話を遮ったのは、劈くような悲鳴だった。
しかしこれははっきりと聞き覚えのある、馴染んだ悲鳴。
同時にぼむっ!とこれまた聞き覚えのある衝撃音。
見れば立ち昇る緑色の煙。
科学的な色が毒々しい。
「げっ」
「またっ!?」
劈くような悲鳴は聞き覚えのある、ミランダのものだった。
案の定、運んでいたらしい段ボールの中身をぶちまけて転んだ彼女の姿が見える。
しかし毒々しい緑色の煙に包まれてはいない。
包まれているのは、ぶちまけた段ボールの先──
「に…ニャ~…?」
「…ニャー」
青い顔でその場に座り込んでいる、リナリーとブックマンだった。
「わー!今度は猫語になったぞ!?」
「誰が作ったんだそんな薬!」
「本当無駄なもんばっか作りやがるなお前ら…ッ!」
「って今度はリナリーまで!」
「ジジイキモいさー!」
にゃあにゃあと二人の口から発せられる声は、可愛らしい猫のような鳴き声。
それを見て一斉に慌てふためく科学班一同とエクソシスト達。
「ひぃいいい!!!ごめんなさいごめんなさいぃいいい!!!!私も猫になってお詫びをぉおおお!!!!!」
「み、ミランダ待て!その瓶を振り翳すな!」
「ダメダメダメ!落ち着こうミランダさん!」
中でも一番のパニックを見せたのは、原因であるミランダ。
責任を感じ、恐らくそれであろう猫語変換薬の瓶を持つミランダを、マリとアレンが慌てて取り押さえた。
「落ち着けミランダっ深呼吸だ、ほらっ」
「ジジイはヤバいけどリナリーは許せるからいいんじゃね?」
「何言ってんだテメェはッ!」
「げふぅ!」
必死に言い聞かせるマリの横で、さも当然のように言い切ったラビに二度目の神田の拳が落ちるのは、必然だった。