第81章 そして誰もいなくなった
「これなら二人の子供姿の方が、まだ可愛げあるから」
「へ?可愛いじゃん、ウサ耳。フツーに」
「嫌味かテメェ」
「いやいや、考えてもみてよ二人共。今の私、耳が四つもあるんだよ…気持ち悪くない?人というか生き物としてまず可笑しい」
「「………」」
体を震わせ青い顔をする所、本気で気持ち悪いと思っているらしい。
そんな南の、外れてはいるが道理にはかなっている意見に、ラビと神田は押し黙った。
形は違えど四つの耳。
確かに、気持ち悪いと言えば気持ち悪いのかもしれない。
「気持ち悪いか…その通りじゃな…」
「あ。ジジイが凹んだ」
「わー!ごめんブックマン!か、可愛いよブックマンの耳は!私と違って真っ白でふわふわで…ッ」
「やめろ馬鹿。傷口抉ってるようなもんだぞソレ」
しかし思いも寄らぬ所でダメージを受けたブックマンが、ずぅんと重い影を背負って凹んでしまった。
慌てた南のフォローもなんの意味もなし。
冷たい神田の言葉が、最終的にぐさりと南の心を抉る結果となった。
「ぅう…本当にごめんね、ブックマン…」
「つーかさ、時間経過で戻るんだし。そこまで凹むことじゃなくね?」
「喧しい…毛のあるお前に儂の気持ちなぞわかるものか…」
なんだかなぁ、と見守るラビの目に映る、盛大に垂れ下がった白と黒の兎耳。
二人の表情以上に、感情を表しているように見える。
「でもそれもちゃんと機能した耳なんだろ?触感あるみたいだったし」
「ああうん…よく聞こえはする、かな。だからあんまり耳元で叫ばないでね」
へたった兎耳を両手で押さえる所、本物の兎のような機能を備えているらしい。
ブックマンとは正反対な色した、真っ黒なふわふわの細長い獣耳。
───ヒ……ひ…
その先がぴくりと、微かに揺れた。
「?」
「どしたんさ?」
ぱっと顔を上げた南が在らぬ方向を見つめる。
何かと目線を追ったラビの目には、特に何も変わったものは映らない。
「や…なんか今……声が…」
「声?」
些細な物音も拾う獣耳。
そこに舞い込んできた、小さな小さな、
(あれ?…これ、何処かで…?)
不協和音。