第81章 そして誰もいなくなった
「わぁ、本当にぴったりね」
「ジジイの匂いするさ…臭」
「喧しい!なら着るでないわ!」
「イデッ!」
「…チッ」
マリの言う通り、ブックマンと然程体格差のない二人に老人のチャイナ服はぴったりだったらしい。
普段は高身長なラビと神田。
仕方ないと袖を通す二人の目線の高さは、ぐっと低いものへと変わってしまった。
よかったね、と笑いかけてくるリナリーの腹部程に。
しかし変化は背格好だけではない。
同時に落ちてしまった己の筋力を感じながら、堪らず神田は舌打ちを零した。
「ィテテ…ぽんぽん殴り過ぎだっつの…」
「ラビが文句言うからでしょ。着せ替え人形にならないだけマシだから」
神田の次にブックマンからの重い拳骨を喰らい、小さなオレンジ頭を抱えるラビ。
そこへ目線を合わせるように屈みながら、南は溜息をついた。
自分が幼児化した時は、それはそれは人形の如く盛大に着飾られたものだ。
そうならないだけあり難いものだろうと、しみじみ思う。
「てかさー…オレもウサ耳のが良かったさ。体が縮むって、色々不便」
「私の時に比べたらまだそこまで幼くないでしょ?言葉だって拙くないし」
「そうだけどさー…」
「それに言っとくけど、これ私の耳じゃないからね」
「は?何言ってんさ南。どう見ても耳じゃん。兎の」
「頭まで動物化したのか、お前」
「失礼なっ。ブックマン見たらわかるでしょ。兎耳だけど、変化したのは髪の一部だから。ほら、ちゃんと自分の耳は残ってるし」
首を傾げるラビと呆れ顔の神田の視線が集中する中、南は髪を掻き上げ人としての耳を露わにして見せた。
確かに兎耳とは別に、きちんとそこに存在している人のものである耳朶。
しかし説明する南の顔色は、何故か暗いものだった。