第81章 そして誰もいなくなった
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───現在。
ゴーン、ゴーン
夜も更けた深夜2時。
科学班に設置されている大きな古時計がきっかりその時間帯を指し示したまま、重いベルを鳴らす。
ピカッと眩い光が窓の外から差し込み、書類の束を抱えていたリーバーは目を細めた。
「わっ、今の結構近かったんじゃないスか?」
「だな」
ゴロゴロ…!と地鳴りのような雷鳴が鳴り響く。
つい耳を覆ってしまいたくなる程の大きな轟に、隣に立っていた小柄なジョニーが肩を跳ねさせた。
嵐でも近付いているのか、当分止みそうにない横殴りの雨が、ばたばたと音を立てて暗い窓硝子を打ち付けていく。
深夜の科学班研究室。
書類や文献や科学薬品の数々が、机という机に隙間なく山積みにされていた。
深夜だというのに人気も多く、騒がしい。
理由は一つ。
引越し作業の為だった。
ノアとAKUMAの本部襲撃によって、大きな痛手を受けた黒の教団総本部。
中央庁で開かれた議会により、百年もの間エクソシストの本拠地となっていたこの城は、廃棄を命じられた。
新しい土地で新しい本部を立て直す。
そんな突如として決まった本部移転の通知が団員達に届いたのは、二日前のこと。
故に深夜まで総動員で作業に取り掛かり、慌しい引越し準備が行われていた。
医療班も探索班も警護班も管理班も、そしてここ科学班でも。
しかし慌しい作業が丸二日も続けば、徹夜作業に慣れていない者には疲れが出てくる訳で。
「すぅ…」
科学班の手伝いとして、大量の文献を種類ごとに分けて段ボールに詰め込んでいたアレンは、分厚い文献に頭を預けてうとうとと微睡んでいた。
「これは何処に持っていけばいいんだ?リーバー」
「ああ、それはあっちに…ん?」
大きな段ボールを軽々と両腕に一つずつ抱えたマリが、運び先を尋ねる。
指示を出しながら向かう先へと目を向けたリーバーの目が、それを捉えた。
「ば、馬鹿!起きろアレン!」
「ぐー」
すっかり夢の世界へと浸ってしまったアレンが、遠慮なく全体重を掛けた山積みの文献。
インク瓶やマグカップやその他の小瓶を乗せた文献の山が、ぐらりと傾く様を。